起業論

【起業・スタートアップ直後】実績ない場合は「実績は買おう!」

2024年5月29日

スタートアップ直後の悩みあるある「実績が無くて受注できない」

多くの起業・スタートアップ直後の人がぶち当たる壁があります。 それは「実績がなくて受注ができない」問題です。

自分がお客さんの立場になればすぐにわかることですが,何か依頼をしたり,買ったりする場合,やっぱりベテランや実績のある人にお金を払った方が安心ですよね。 ネットを見ても「相見積の際は,相手の実績を確認しましょう。」とか書いてあるし,やはりお客さまはシビアなんで,やはり開業直後の実績がないという状況は非常に不利となります。

しかし,スタートアップ直後に「実績ないから仕方ないよな~」なんて,ほほ〜んとしてるとキャッシュが枯渇して死ぬので,私が個人的にやった実績の積み方をお話しします。

結論から言うと「値引き」をしましょう。 つまり,価格を安くする(=実質的に自分がお金を出す)ことで,実績を買うということです。

 

戦略的値引きはwin-winとなる

実績を手に入れるための値引きは,お客さまとの関係においてwin-winの関係を構築できます。

まず,自身のwinとしては,喉から手が出るほど欲しかった実績1個が手に入ります。 実績がゼロかイチかは天地ほど差があります。 まず,そのサービスや商品を実際に1個売る(売った)わけですから,実務知識・実務経験が手に入ります。 実務知識・実務経験というのは,実際に販売しなければ手に入らない大変貴重なものです。

さらに,その(販売)実績が,自身のビジネスの記念すべき第一号だったならば,「自分ひとりのチカラでモノを売ってお金を稼いだ」という事実が,とんでもない自信を生み出してくれます。

また,たとえ値引きしたとしても,自分ひとりのチカラでお客さまからお金を払って頂けるというのは,とんでもないことなのです。

さらにさらに,値引きしたことでお客さまの心の中にあるサービスに対する期待値が下がる効果も見込まれます。(だからって手を抜いたらいけません)  つまり「え,この値段なのにめっちゃ良くない?!」と,感動してもらいやすくなります。

以上のように,実績を手に入れる過程で値引き分以上のリターンを得られるので,スタートアップ直後の値引きは自身にとってwinである側面が多くあります。

さらに,値引きはお客さまにとってもwinです。 これは簡単です。 キチンとサービスや商品を提供したのならぼ,単純にお客さまは値引き分お金の出費が減ったからです。

このように,"実績を手に入れるための値引き"はwin-winとなりやすいのです。

 

「値引きしないこと」を勧める派がいる

しかしながら,世の中の本やネット記事に目を通すと,値引き否定派が非常に多いです。 頑なに「値引きしてはいけない! 自分の時間に対する報酬が低くなって,貧乏暇なし一直線!」みたいな,値引き=禁忌かのような情報がゴロゴロしています。 SNS上で見かけた士業の方も,値引きを完全否定されていました。

ただ,私は前述のとおり,値引きには賛成派です。

だって,「貧乏暇なしになるって言うけど,スタートアップ直後に案件が1件もないなら,暇やろ? それに,かたくなに値引きを否定してキャッシュ枯渇したらどうするの?」と考えるからです。

ネット見かけた経営コンサルの方が「値引きはダメ」と発信する一方で,「リスティング広告をうまく使え」と宣伝広告費に投資すべきと発信されていました。 矛盾してませんか?

10万円のものを売るとして,1万円値引きしたとすると9万円の粗利です。(『粗利』という表現がちょっと正確じゃないですがご了承ください) 対して,宣伝広告費に1万円かけたとしても,同じ粗利9万円です。

自分の売上としてはどちらも9万円で同じです。

「いやいや...ネット広告費は認知率の向上の効果があるでしょ?」という反論もわかります。 しかし,仮に前述の1万円の広告費が用意できるのならば,スタートアップ直後であれば「多数の将来顧客になるかわからない人に薄く投資する」よりも「目の前の記念すべき初顧客に還元をしてあげる」方が有意義な1万円になる可能性が高いと私は思います。 目の前の還元してあげたお客様がサービスに満足してくれれば口コミの宣伝効果も手に入ります。

読者の方も,服を買う際に「定価だったら買わないけど,在庫処分の値引きで,この値段なら買っちゃおう」という経験が一度くらいはあるのではないでしょうか?  これも値引きに他ならず,この値引きもwin-winを構築できる戦略的値引きです。

なぜなら,店としては不良在庫のおそれのあった棚卸資産を割安とはいえ現金に変換できています。 それに対し,お客さまも,定価よりお得に商品を手に入れることができています。

このように,win-winが構築できるのなら,値引きというのは立派な生存戦略であり,頭ごなしに否定すべき戦略ではないと考えるべきです。

 

値引きによる業界の衰退

ここまで値引きについてポジティブに発信してきましたが,値引きの負の側面にも触れておきます。

値引きは業界全体の衰退を招く危険がある行為であることは知っておかなければいけません。 この点を危惧して値引き否定派の声が大きいことは私も理解しています。

多くの売主が値引きを乱発すると,そのサービスや商品の相場が下落していきます。 そうなると,消費者はその下落した相場が基準となってしまい,事業主の利益を圧迫してしまうのです。 そして,下落した相場からさらに値引きをする者が現れて…というループに入り,最終的に同業者全体が苦しくなり,その業界が死んでしまう可能性があります。

私が行政書士の立場として知っているこのループに陥っている業界は,自動車の書類関係を代行する業界です。 この業界は低価格競争化が進みまくっていて,超薄利多売になっています。 もはや薄利多売すぎて,ビジネスとしてそもそも成り立たせるのが困難になりつつあると思っています。

そうなると,誰が困るのかというと,一般消費者です。

企業などのビジネス主体は利益追求組織であって,ボランティア団体ではありません。 儲からない業界には参入者が減りますので,サービス提供者が激減して,業界がもし消滅したら,その分野については一般消費者が自分でやらないといけない不便な未来がやってきます。

このように,安易な値引きは,業界・一般消費者・自分自身の首を絞める結果になるので,気をつけましょう。

あくまでも,自分の実績をゼロ→イチにする,不良在庫を致命的にならない単価で売り切ってしまうなど,ごくごく限られた場面で有効であり,私は時と場合をよく吟味した戦略的値引きが効果的である,と伝えたいことに留意してご判断ください。

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