起業すると尽きないお金への不安
独立したら強烈に人の精神を攻撃してくるものがあります。 それは,自分の口座内のお金が信じられないほどのスピードで減っていくことに対する不安です。
会社員であれば,口座残高がお給料日に定期的にベホイミされる(回復される)ので,支出さえコントロールできていれば,経済的破滅の可能性は低いです。
けれども,独立したとなると,お給料という概念は消えて,売り上げという,お客さまから入金が無ければ口座残高が回復することはなく,みるみる減っていくのみとなります。
事業開始後の期間であれば支出は固定費+変動費である程度予測はつくようになりますが,独立や起業のスタートアップ直後ですと,多かれ少なかれ初期費用がかかりますので,貯金の消化スピードはスタートアップ期は特に早いです。 貯金は秒で溶けていきます。
貯金から,固定費・変動費・初期費用(・突発的なコスト)を支払ってもまだ終わりではありません。 そこからさらに,日々の生活費としてのお金が消えていきます。
この辺りをあらかじめ考えておかないと,あっという間に大切な貯金が尽きてしまうし,キャッシュフローが悪化の一途をたどって廃業一直線です。
事業が安定して軌道に乗るまで,この貯金が減っていく不安に向き合わなければならないことは,起業前から認識しておきましょう。
お金への不安を原因とする「貧乏暇なし」
お金への不安,すなわち貯金が減っていく恐怖は,ビジネスにおいてもマイナスの影響を与えます。 たとえば,お金が減っていく不安・恐怖から解放されたいがため・目先の売上を確保するために,とんでもなく割に合わない仕事を受注してしまう...,または交渉において足元を見られた条件を提示される,などです。
悪条件の仕事を受注してしまったことで,ある程度の時間仕事で稼働しているのに,実入り(売上)は小さい状態に陥っていく...これが俗に言う「貧乏暇なし」です。 貧乏暇なしは,このような人間の心裡メカニズムで陥るものなのです。
人間はストレスや恐怖や不快感などと相対した際には,それから逃れようとする防衛反応を自然に行おうとする性質があります。 クレジットカードの請求額が怖いから明細を見ない(or見るのを先延ばしにする)ようにしたりするのも,立派な防衛反応です。
お金が減る恐怖から逃れたくて,目の前の儲からない(場合によっては赤字の)仕事を受注し,恐怖を和らげ,メンタルを維持する…。 つまりこれも人間の不安に対する防衛反応であり,「貧乏暇なし」は,心理的圧迫から自分を守るための人間の防衛反応が引き起こす結果なのです。
なので,「貧乏暇なし」に陥らないためには,人間の心理的機能を把握しておかなければなりません。 「俺は,私は,大丈夫だよ」と平常時には思っていても,貯金が尽きてしまいそう,来月の家賃や借金を返せないかもしれない…という事実を前にしたときは,どうなるかわからないのです。(そして多くの場合,誘惑に負けてしまう)
「貧乏暇なし」への対抗策
「貧乏暇なし」状態に陥ることを回避するには,根本的にお金に困っていない(=安定した売上・利益がある)状態を構築する必要がありますが,スタートアップ直後からそれがみんな出きるなら誰も困りません。 そうなると,お金の不安を抱えている状態とうまく付き合っていく,自分の心理面とうまく付き合っていくことが有効な方法となります。
心理的メカニズムを理解しておくだけで,このような状況に自分が実際に相対した時,「この案件は受注する価値があるだろうか?」と一歩踏みとどまることができます。
自制する以外の解決法
「貧乏暇なし」メカニズムを知り,自制するだけで全員が「貧乏暇なし」を回避できるなら,そんな簡単なことはありません。 現に,人間の防衛反応は,本能であるので,理性でいつもコントロールできるものではありません。 したがって,メカニズムを把握して理性で常にコントロールすることは難しいことを前提として対抗策を用意しておく必要があります。
そこで,理性による自制以外の方法で「貧乏暇なし」を回避する方法をいくつか解説しておきます。
①:キャッシュ(貯金)を大量に持って起業する
「貧乏暇なし」の根本的原因は,お金が減っていき,貯金が底を尽くことに対する恐怖にあります。
であれば,貯金を大量に確保しておけば,底が尽くのがだいぶ先なので,不安をほぼ感じないことになります。 したがって,逃れるべき不安や教具が発生しないのだから「貧乏暇なし」メカニズムに陥らないというわけです。
私が参入している行政書士事業分野でも,「半年間仕事ゼロでも生活していけるくらいの貯金を持ってスタートするといい」という意見をよく聞きます。 なので,今現在,これまでお仕事を頑張ってきて減っていく恐怖を感じない程度の貯金を確保できているのなら,「貧乏暇なし」に陥る危険はかなり小さくスタートができます。
しかし,普通に生活していても貯金が貯まりにくい不景気なのに「不安を感じないほどに貯金を貯めましょう!」では解決になりません。 本メディアの読者さまの中には学生起業を目指している方もいらっしゃると思いますので,別の有効な手段を考えてみます。
②:固定費を圧倒的にコストカットする
貯金が大量に確保できない場合にも有効な手段が,固定費を圧倒的にコストカットする方法です。 固定費とは,売上に関わらず発生する毎月の必要経費です。(たとえば,家賃・電気代・駐車場代などです。) 大家さん「今月は売上がゼロでしたか〜! じゃあ今月の家賃は0円でいいですよ!」なんてことは普通ありません。
売上に関わらず発生してしまう固定費を可能な限り下げることで,貯金が尽きるポイントを未来へ遠ざけることができます。
これを狙うのです。
ちなみに自分の固定費は,行政書士のメイン業務案件1件受注すれば,固定費をペイできる程度にコストをおさえています。(それプラス不労収入を増やしていっている) これによって「とりあえず1か月に1件受注すれば生きていける~」という安定した精神状態を維持し,割に合わない仕事はお断りする手段をとることができています。
「貧乏暇なし」対策をすることの効果
「貧乏暇なし」対策をすることで,さまざまな効果が見込めます。
まず,貯金の減少に対する不安が縮小しますので,採算性の悪い仕事を断る余裕ができます。 世の中,足元を見てくる人は多いので,余裕のない事業者に対して,格安の発注をしてくることは往々にしてあります。 これを冷静な精神状態のもと,判断ができるようになるのです。 つまり「そんな単価で,俺(私)が仕事すると思ってんの?」と言えるようになるわけです。
また,お金に不安がある状態では,接客に無意識に影響が出る可能性があります。 「とにかく仕事が欲しい…!」「なんとしても目の前のお客さんからの仕事を受注したい…!」という態度は,相手に伝わりますし,身振り・手振り・言葉に無意識にあらわれます。
工夫又は事業の安定化によって,安定軌道に乗り,金銭に対する心理的不安が無くなると,余裕を持ってお客さんと相対できます。
この態度は「自信のある事業者(専門家)」に顧客から見え,お客さん安心感を与え,結果,契約がまとまりやすくなります。
まとめ
「貧乏暇なし」とは,金銭的不安から発生する心理的圧迫から逃れようとする防衛反応が原因です。
不安に打ち勝つ自制をするか,以下の2種類の方法を取って対策する。
- ①:キャッシュ(貯金)を大量に持つ
- ②:固定費を圧倒的にコストカットする